Sartoria Panico サルトリア パニコについて

僕は彼の仕立てる服が昔から大好きで、今でも良く仕立てて貰っている。

何が良いって、広く力強い肩と存在感のあるラペル、ボリュームがあり美しい胸のドレープ、とても立体的だ。
男の色気と渋さを際立たせ、着る人をたくましくエレガントな男に見せてくれ貫禄や格を一段上げてくれる。

わかりやすく言えば、ひょろい青びょうたんでも筋骨隆々のヘラクレスに見せてくれるという仕立ての真髄を発揮した服だ。

アントニオ パニコ(Antonio Panico)の事は先日他界したティンダロデルカ(Tindaro De Luca)と同じくイタリアの仕立てが好きな人ならその名を知らぬ者はおらず、彼の服を1度は着てみたいと思わぬ者は居ないだろう。

ま、とにかくカッコいい。
シングルもダブルもコートも全部だ。

前にも少し書いたけど彼は渋くエレガントな男で、気難しい芸術家のような一面もあったりするが、その実子供みたいにやんちゃでユーモラスでもある。比喩やジョークなんかも良く言うが、仕立ての話になると目が変わる。
真面目に話した時に見え隠れする尋常ではない覚悟に、生涯をその道に捧げた哲学に、その尊さに畏敬の念を抱かずにはいられない。ここ10年位で少し丸くなった感じがする。
ちなみに日本ではパニコと呼ばれているが発音はパニーコ。
娘パオラに弱い、そこがかわいい。

彼は客を力強くエレガントに演出しようとあれこれ提案もしてくれる。
また彼の色や生地選びなんかも僕の好みと良く合っている。やはり打ち込みの強い上質なヴィンテージ生地を好む。
仕立て映えがして長く着続けられるものだ。自身も30年前35年前に仕立てた服を良く着ていて、型崩れなってしてないだろ、私の服は50年は着れるや死ぬまで着れるが口癖で、僕はいつも
「じゃ棺桶にはあなたの服を着て入るよ」
などと言ったりしている。
でもそれでいて軽く柔らかい仕立てで、ふっくら包み込みながら吸い付くような着心地は、柔と剛を融合させる究極の仕立てだ。

逆に繊細過ぎる生地なんかは非常に嫌う。
たまに冗談で聞いてみるとそんなもんで作ってどうするんだ、せっかく仕立てるのに使い捨てにする気かと言う。
言えば作ってくれるんだろうけどね、でもそれは彼を侮辱してるようでとても言えないし、いらないな。

仕様に関しても同じだ、あれこれ下手に指定しないでお任せが一番だ。彼はいつもその生地で最大限にエレガントに見えるよう考えてくれる。
もしそれがそう思えないのならそれを着て学ぶのが良いと思う。

彼はナポリ仕立て史上最高にして最後のマエストロ、孤高の天才と称されるがそれは間違いないと思う。
幼少期よりジュゼッペ ルオトーロ(Giuseppe Ruotolo)、アンジェロ ブラージ(Angelo Brasi)、ロベルト コンバッテンテ(Roberto Combattente)に学び10代にしてその全ての技術を習得し、ジェンナーロ ルビナッチ(Gennaro Rubinacc)に誘われロンドンハウスにてヴィンチェンツォ アットリーニから引き継ぎその腕を振った。モデリストとしての能力も非常に高くKitonの型紙を作ったりサイドベントを考案したりもしていた。
長い歴史の集大成であり、最高傑作なのだろう。
まさにパニコの前にパニコなく、パニコの後にパニコなし。

70後半となった今でも朝から工房で鋏を奮うその姿を見ていると、やはりこれを残す事は不可能だと思い知らされる。

韓国の(Lamarche)でMTMをやっていて、これに関してはパニコの工房できちんと作られている。彼は他のサルトリアの様に外注などはしない。例え非効率であったとしても最高の作品を提供する事を求める辺りにも彼の並々ならぬプライドを感じる。
トラウザーズは作ってない。が俗にいうハウスというかパニコ自身は2インプリーツをオススメ。
孫のアルベルトもこの道に入ってる。

ただ時々カルドゥッチ通りやミッレ通りなどで彼を見かけると、何処か寂しそうな目をして歩く人並みを眺めている時がある。
それはナポリでさえ仕立ての文化は廃れゆき、最早止める事の出来ないその流れに美しかった時代を重ね懐かしんでいるように。

話していてそれを垣間見ると仕立て服が好きな僕も何故か当事者のような気持になってしまう。