日本でオーダースーツを仕立てるならどこがいいか 3

少し前の話。25年来の友人からの電話、彼はいつも時間も考えずに電話してくる、この日は朝一だ。
どうせ昼食でも食べながら電話して来てるんだろうな。。。

彼はもう40歳だから良い機会にオーダーに切り替えていきたいから、日本でどこが良い、どうやってオーダーすれば良いか教えてくれと言う、不惑か。
トランクショーならダルクオーレやリベラ―ノのようなものが良いらしい。

僕は正直マニアでもないし余り細かい事は指定したり気にしたりしないから、あまり教えられる立場でもない。
もちろんイタリアでオーダーをするから向こうのことは普通の日本人よりはわかっているかもしれない。

1点大事なのはどこで作るとか言うのは、自分の好きな所にすれば良いと思うが、自分の好きな形や服が必ずしも自分に似合うとは限らない。
良く日本人はここはこの形や雰囲気がハウスだというけど、骨格や体型の違いがあるからそのイメージ通りにならない可能性もある。

そのサルトを見て、自分と似た体系のサルトを選ぶとそれに似た感じになるかとは思う。
そのサルトが長い試行錯誤のベースとしているのは当然自分の体で、まずはそれが最高に見えるようなラペル感や形になっている事が多い。
フィッティング関してもその基本的にそのサルトが着てるジャスト感でする事が多い。
素材に関してもそのサルトが身に着けているものが得意、良く合うと言った傾向がある。
勿論当人の美的センスや経験値なんかもこれに加味されるのだろう。

日本人は痩せ型の人が多い、間違った痩身信仰もあるのだろうけど。
肩幅や胸幅がない上に圧倒的に身体の厚みがない、遺伝子的に筋肉質でもないし腕も細い、極端に言えば丸太とまな板、この肩や胸の薄さに加えて腕の付け根位置が欧州人とは違う。
肩や胸の幅がないとどうしてもラベルとの間隔が詰まってしまって不格好というか変な感じになる、コージ位置もそう。
多くのサルトリアの仕立てる服のイメージの感じは最低でもある程度がっちりしていないと感じが出ないのは確かだ。

後は髪型や色でも大分イメージが変わってしまう、特に黒くてある程度ボリュームがあるサラリーマンヘアはジャストなスーツに対して頭が大きく見て不格好に見えてバランスや台無しになる事が多い、白髪系ならある程度その辺はクリアされる。
頭の先から爪先までの調和が取れていないと、逆に余計滑稽でダサく見える。

例えばその友人が言った
リベラーノ&リベラーノ(LIVERANO & LIVERANO)ならアントニオ リヴェラーノ(Antonio Liverano)のように丸いずんぐりむっくりしたふくよかな体型だとその感じは良く出て映える。首もすっきりして見える小デブ親父の強い味方。逆に痩せ型の人は肩が落ちて亀やスッポンみたく見える人も多いし、ぽさは出ない事が多い。助さん格さんは全く似合ってないと思う。

サルトリア ダルクオーレ(Sartoria Dalcuore)も肩胸や前身にある程度肉が無いと自分が思ってるより前が落ちてイメージ通りにはならないと思う。もはや残骸が残るだけだ。ダミアーノは似合ってる。

だったらMTMやRTWの方が計算されたパターンでその雰囲気を完成させてるのでイメージに近いものが着られるかと思う。

逆に少し痩せ型の彼にオススメしたのは先日書いたピロッツィ、ヌンツィオもドメニコも背も低くがっちりブサイク体系なので日本人が着ても同じ感じが出ると思う。多少痩せ型でも大丈夫。ただ背が高い人は合わないかも。
チャルディもレナートは日本人っぽい体型だったので日本人の体型に良く合う。痩せ型でもその魅力は損なわれずイメージ通りだと思う。
日本人職人では作った事ないので分からないが、自分は日本ならコルウ辺り良いんじゃないかとススメてみた。
イタリアでもそうだけど、日本でもあまり有名でないところでもきちんと高い技術で腕の良いところはあると思う、そういうところの方が臨機応変で我儘も聞いてくれて対応も良い事もある。

そういえば前に日本在住のイギリス人の友人が日本の有名サルトリア3ヵ所に作って貰った事があるのだけれど、どれも全く似合ってなかった。

もう1点はどうやって自分の好みを伝えるかだけど、それはどうやってサルトに理解してもらうかだと思うんだけど、適当な事言うとサイジングで失敗する可能性がある。これは失敗というより好きなジャスト感ではないって感じもあると思う。

なのでまずは自分が普段来ている中で、サイズ感として一番気に入っているものや自然に手に取って良く着るスーツを着ていくか持っていく。ジャケットとパンツがバラバラでも良い。
素材も同様に良く着てるものや気に入ってるものを持ってくのが良い、仕立てるからと言って着もしないエクスクルーシブや高番手な生地や、ヴィンテージ生地が流行ってるからとか言って着難い分厚い生地や変な色で作る必要はない。イメージがあるのなら写真を持っていくのも良い。気に入らないとせっかく作っても着なくなるからね。
例えばチェックのジャケットをオーダーするなら最適な組み合わせとしてセットアップ的にそれに合うパンツも同時にオーダーするのも良い。
フィッティングは重要だし、仮縫い時にきちんと動作確認をする事は大事、ボタンを留めて腕の上げ下げ回しや座ってものを書いたりPCをいじる動作、パンツも座ったり腿を上げたり足を組む癖がある人は組んでみたり靴紐を結んでみたり、走るポーズをとってみたりなど。色々あるのだろうけど、突っ立ったままのみはやめた方がいいんじゃないかと思う。
あとは体型変化に備えて多少縫代は多めに。

別にTシャツ短パンでスーツをオーダーしにいっちゃいけないというわけじゃないが、仕上がりは多分違うだろうな。

書いていて中学1年の頃、近所の美容室に行き始めた時の事を思い出した。
芸能人の写真を持って行き、この髪型に、かっこよくして下さい。
美容師「頭の形も顔も髪質も生え際も全然違うからこの髪型しても似合わないよ、変になるだけだと思う。これはこの人がやるからかっこいいだけ、君は〇〇や〇〇な感じの髪型は似合わなくて〇〇や〇〇な感じの髪型が似合うと思う」
しかし僕は認める事が出来ず、初めに指定した髪型へ強行した。
結果は、超絶似合ってなかった。
家に帰って親にも言われた、友達にも言われた。その日の夜にまた行って直してもらった。

次に行ったときはそう言われたのを考慮して自分に似合いそうな写真を探して持って行った。
また同じような事を言われたが、強行した。
また似合ってなかったが、少しは考えてたので直す程の惨事ではなかった。

次に行く時は事前に連絡して似合いそうな髪型の写真を幾つか用意して貰い、それから選び自分に合うようにしてもらった。
似合うようになった。
その次からは自分に似合う髪型が分かってきたのである程度口頭で説明できるようになっていた。

別にイタリアでもイギリスでもフランスでも日本でもどこでも好きな調で作ればいいと思うが、好みの前に似合うという一線や良い仕立てやTPOにそぐうそぐわないの一線があるだろう、自分が好きな形や色が自分に似合うとは限らないのは、通常の生活を過ごしていれば当然分かる事なんだと思うし、大体ナポリ、イタリアがなんて所詮はローカルネタで、大阪の北区でどのお好み焼き屋が旨いとかの話と変わらないと思う。
男らしくも、美しくも、エレガントにも、格好よくも見えないし逆にマイナス効果しか出してないなら着たいものでも止めた方がいい。
ただ日本では感性やセンスが1番育ち依存する多感な中高生時期に制服で過ごさなければならずその辺りの日常性や感性が研がれず未熟なままというか分からない人も多いのかも知れない、ONのネクタイスーツ姿は良いがOFFの私服がダサい人はこの典型な気がする。そういった事に余り興味が無い男女に似合ってるか似合ってないか聞くのも良い、日常では良くも悪くも人が振り返るような服装はすべきではないと思う。

これは作りや着心地とは関係の無い話だけどね。

大事な事は権威や蘊蓄よりも、当人が着てる状態でどう見えるか、と着心地や耐久性の調和の取れたバランスだと思う。
ハンガーやトルソーに着せて眺め造形美を楽しむものでもない。

例えば5万円で2年しか着ない既製スーツより50万円でも20年着れる誂えスーツの方が良いんじゃないかと僕は思ってる、良いスーツを買う事の目的を着心地は勿論の事、見た目が与える印象を良くしたいと捉えれば後者の方が圧倒的にコストパフォーマンスが良いんじゃないかと思う。流行りのスティレラティーノのスーツよりも誂えスーツの方が10年後20年後ワードローブに残ってるんじゃないかな。

自分のワードローブの中で着用頻度の高いお気に入りからオーダーして入れ替えて行く、自然な自分の生活に根差した必要なものを更に自分にとって良いものにして行くのが良いし、そしてそれが劣化してダメになったら同じものを買うくらいのものの方が良いと思う。自然と余計なものは買わなくなる。
これは靴でもシャツでも何でも同じで、無理して自分に見合わないものを作ったり買っても結局無駄になるだろうし、勿論コストも継続可能な範囲内のものが良いと思う。

といった具合に友人に拙いけど説明してみた。
せっかく聞いてくれたし当然友人には素敵になって欲しいし嫌な思いはして欲しくない、勿論僕の主観だし価値観はそれぞれだけど少しでも参考になればと思ってる。