Sartoria DALCUORE サルトリア ダルクオーレ 死す

サルトリア ダルクオーレが死んで13年の月日が経った。。。

僕が作った事があるのは20年位前と17年位前の2度、きっかけはナポリの友人がその数年前に仕立てたというスーツを見せて貰い素晴らしかったからだ。
特にシングル、独自のラペルから裾に掛けての鋭く流れるカットは非常に美しかった。
エレガントさはないものの、男らしさというか男臭さを醸し出す服、前衛さとクラシックさを確かな高い技術で柔らかく軽い仕立てだ。その雰囲気は軽めの合物生地で最大限に表現される、寧ろ重めの生地だとその雰囲気を殺してしまう。
ビジネスやフォーマルでは着れないが友人と夜飲みに行くときなんかに着ていたな。

ルイジ ダルクオーレは無骨で寡黙な男で黙々と朝から晩まで作り続ける職人で、あの鋭い眼差しはそのまま服のカットに出ていた。他国でも修行した彼の服はナポリにはない雰囲気でギリギリの絶妙なバランスで成り立つ服だった。
ダルクオーレの代名詞とも言うべきこの独自のシングルは、実はその昔ミラノの某サルトが引いたパターン、つまりダルクオーレのオリジナルパターンではない。それをずっと使い続けていた。だがそれをナポリの仕立て技術と軽快さにより更に独自の雰囲気を醸し出していたのは間違いないのだけど。

当時ダルクオーレは腕は良かったが、現地ナポリの人もたまに作る程度でそんなに有名なサルトリアではなかったし、寧ろ職人の給与もきちんと払えず職人が定着もしないし場所もコロコロ変えなければならない貧乏サルトリアだった。
13年前位の2004,5年頃だったか、脱税で摘発されて少し後、日本でナポリの巨匠、鬼才ダルクオーレなどと明らかなメディア戦略のキャッチフレーズを付けられ目に触れるようになった。確かラフィネリアだったか、日本で売り出されるようになった。脱税手入れ時に巻き添えで別件で絞られた若手日本人も居たな。

10年位前にまた作ろうと立ち寄り、ビスポークの上がりを見せて貰ったところ、持ち味の鮮やかで切れ味の良い仕立てが変わっていたというか明らかに鈍くなっていたので、疑問に思いスミズーラはしなかった。
その後日本やアジアでも人気が出たり既製品始めたり、オーダー会もビームスや三重のBREZZA(ブレッツァ)、MTMやRTWも伊勢丹、ビームス、バーニーズNY、ブライスランズ、ringやb.r.onlineやジオベルナルドなどで展開している。

だが、SNSやメディアに露出されている彼の服は僕には以前と全く違うものに見える。
昨年サルトリアを覗きに行った時に掛かっていた作成中の服を見て唖然としたし、震えたね。芯地はナイロン混紡でミシンで据付けられ、見える部分以外、内部の殆どはマシンで作られていた。しかも既製服じゃない、スミズーラの服だ。そりゃあのラペルの感じや着心地や柔らかさが出ない訳だ、あの鋭さは高いハンドの技術で丁寧に作られその絶妙なバランスの上に成り立つ妙技なのだろう。もしかしたら10年前に見た時に変わったと感じた違和感はこれだったのか、その時にはもう既に始まったいたのだろうか。
ナポリ海沿いの自社工房ではパンツだけが作成されており、上物は離れたアルツァーノの工房で作られている、来た客やメディア関係者なんかに見せない為か下職がコロコロ変わりながら作っているのだろう。これが自社工房とは。。
最早現地ナポリのオーダーなんて殆ど入らず、アジアの日本香港韓国からのオーダーの物しか無かった。
しまいには変なカーブしたポケットやハートの釦、RTWのラペルへの赤いマーキングはラルデーニのブートニエールと同じだ。こんなの恥ずかしくてどこにも着ていけないし成人した大人の着る服ではないし、SNSのアジア人が着ている服やブレッツァのブログに載ってる客の上がり品なんて本当にヤバすぎる。モード服と捉えればそれはそれで良いのだろうけど。

既製品もブライスランズ以外の日本に入ってるものと、ブライスランズや中国韓国香港などに入ってるものでは制作場所が違う。日本の伊勢丹やBEAMS、ringやb.r.shopに入ってるものは、完全外注でカサルヌオヴォ近くのサルトリアで作られているものだ。そこもフルハンドができる工房だが、少なくともダルクオーレのは違うし、数年前はまた違う外注先で作っていた。

しかし、、、
問題なのはそこではない。
問題なのは、ブライスランズを始め中韓に入ってるものはダルクオーレの工房で作っている自社工房の服だ。日本のトランクショーとかで受注しているビスポークも同じく自社工房で、ビスポークもMTMもRTWも工程は同じだ。そしてこれがヤバ過ぎる手抜き。工房で見える所以外マシンの服を見たと書いたが、これがそれだ。こんなスーツなら400ユーロ程度でどこでも作ってくれる。自社工房より外注の方がクオリティが高いとは何とも切なく情けない話だが、もしかしたら生産体制が整えば全て自社工房にしてこのゴミのようなスーツだけになるのかも知れない。
しかしそれが現在のダルクオーレの紛れもない事実だ。
数値的な事でこういった主観性の強い嗜好品を評価したりするのは好きではないが、例えばビスポークを比べてもパニコが100なら30、SならC程度の仕立てだろう、後は見た目の好みの差は人それぞれだからダルクオーレの方が好きって人も居るだろう、それはそれで良い事だと思う。
これでスーツが生地税込RTW35万円~、MTM40万円~、スミズーラ60万円~とか高すぎる、RTW12万円、スミズーラ30万円とかならまだ分かるんだけど、勿論こんな作りのものその額でも要らないけど。

娘クリスティーナはいいヤツだ。彼女はサルトリアの服が何たるか、仕立て、客が何を求めてるか何も分かってないだけだ。だから本当に良いと思って素敵だと思ってハート型の釦を付けちゃったりする。何年か前に来た娘婿のダミアーノは銭ゲバだしナポリでも評判が良くない、勿論元はただの魚屋だから何にも分かってないというのはナポリ中で有名な話。
ただの既製服ブランド、ダルクオーレへ生まれ変わったと言う事だろう、オラッツィオ ルチアーノなどと同じように見える部分だけハンド感を出し内部は全てマシン、それは時代の流れなのかも知れないし客が納得してるならそれで良いとは思う。

だが各メディアではフルハンドで卓越した技術のナポリ巨匠、鬼才などと未だに書かれている、この欺瞞、僕が思うのはこの点だ。
だから僕はダルクオーレをフルハンドだのサルトリアのナポリ仕立てと言っている店も業界人も雑誌もメディアも一切信用しない。Permanent StyleのsimonやBespoke DudeのFabio Attanasioなんかもどうせタダで作って貰って金貰ってるだけなんだろうと思う。こんなの昔からよくある手法で故・落合正勝も幾つかの所からそのような事をして貰っていた。勿論それを見て買っている人は詐欺にあってるだけだから仕方がないと思う、実際ナポリでは彼の事を詐欺師なんていう人も居る。

しかし、こう言った事はダルクオーレに限った事ではない。
ソリートの時にも少し書いたがこのように昔は良かったが今は良くなくなったサルトリア、昔は良くなかったが今は良くなったサルトリアなどは沢山ある。
実際現地ナポリ人からは殆どはオーダーが取れてないが、日本では最高の仕立てなどと持て囃されているサルトリアも幾つもある。それは単純にその日本のお店や代理店にそこがやってくれるから無理やり価値や蘊蓄付けしているだけだ。
例えば最近日本に入ってきたサルトリア アレッサンドロ グエッラ(Sartoria Alessandro Guerra)などもファッションエディターのYやネクタイのタグをペタペタ変えて売るのが得意な元TIE YOUR TIEのKさんが子飼のサルトリアが欲しくて押してるだけで、実際ナポリでは無名だし仕立ても大して良くないし、現地ナポリ人のオーダーなんて殆ど取れてはいない。
ブライスランズやグエッラについてはまた今度。
基本的に現地ナポリの服に気を遣う人はファット ア マーノ(fatto a mano)、フルハンドで仕立てが良い所でスミズーラしたものしか着ない、現地ナポリの人が作らなかったり評価しないサルトリアの何を持ってナポリ仕立てや良い仕立てなどとのたまうのだろうか。

昨年見たルイジにはあの日の鋭い眼差しはもうどこにも無かった、ただの動く躯のような雰囲気だった。そしてそれはそのまま彼の服に現れていた。
魂を売ったマエストロ、いや、今はダミアーノのただの傀儡なのか、それは可愛い娘の将来を憂いての事なのか。
何にせよ、今はイタリア人は誰も作らないただのナポリにあるってだけの凡庸なスーツ工場だ。

R.I.P. Sartoria Luigi Dalcuore