日本でオーダースーツを仕立てるならどこがいいか 4 後

マーチャント(商社・生地問屋)とミル(織元・生産工場)がある。それぞれのミルには特性がありスーツ地が得意、フランネルが得意、カシミヤが得意、リネンが得意などがある。マーチャントがデザインや企画しそれぞれのミルに発注している場合が多いので、ミルが独自に出しているものと違う場合がある同じや同等の質の生地であったとしても多少価格差がある、マーチャントの方が2割位は高いだろうか、更にそれを日本や代理店で買うと高くなる。

ここ最近どこにでもあるラグジュアリー ファブリクスの鶯色のエスコリアル(ESCORIAL)のバンチにしたって、織元はリード&テイラー(Reid&Taylor)で、日本で代理店を通して買えば税込31000円/m。着分だと93000円。着分9万円の生地って中々高いが、エスコリアル原毛生産量はカシミアの100分の1だし、質的にもタッチはカシミアのように滑らかだがハリコシや耐久性やウールの特性もある非常に良いの素材だ。一昔前に比べれば安いというべきなのだろうか。他で買ってもミルが協会で6社に限定されているのでハズれが少ない。生産量が少ないから色柄のバリエーションは少ないが、カシミアのネイビージャケット作るならエスコリアルの方が良いかと思う。
ロロピアーナ(Loro Piana)のカシミア生地なんて織も甘いし弱いからすぐに毛羽立ってモワっとなるから止めた方がいいし、カシミアジャケット作るならピアチェンツア(PIACENZA)、ジョシュア エリス(Joshua Ellis)、ジョンストンズ (JOHNSTONS OF ELGIN)などの方が良いと思う。しかもロロピアーナは2013年にLVMHに買収されて以来、カシミアの質は更に悪くなったように感じる。LVを始めグループのプレタに良いカシミア原毛を優先的に回し、ロロピアーナのプレタは被らないようにベビーカシミアや特殊生地に寄せている。勿論カシミアは原毛生産量の4倍以上市場に出回ってるので粗悪品や変な混ぜ物や偽物買うよりは良いとは思う。
ウールにしたって今や中国の出荷量はオーストラリア・ニュージーランドを足した量より遥に多い。

スキャバル中級以上のスーツ生地を織ってるのはバウワーローバック(Bower Roebuck)でそちらから選べば生地代なんて半額近いだろう。キートン(Kiton)、ブリオーニ(Brioni)の生地も織っている。

彼は良くチェザーレ アットリーニ(Cesare Attolini)を着ているのでイタリア生地はどうだと薦めてみたところ、行った所でどう説明されたのかは分からないが僕のこの友人には英国生地が良く、イタリア生地は良くないとのイメージがあるようだが、それぞれ一長一短だから使い分けの問題だとも思う。英国生地は質実剛健で重めで耐久性もあり仕立て栄えする、イタリア生地は軽めで色柄などデザイン性に長け柔らかくドレープ性があると言ったイメージだろうか。チェックなどに関してはメーカーやシリーズなどに拘らず色柄のみでまず選んだ方が方が良いと思う。

イタリアブランドは大概イタリア生地が多いし、気に入ってるから既製のそれを買っていると思うのだが服のデザインは気に入っているが生地感は気に入っていなかったとかなら分かるが、ならそもそも無理して買わず好きな所で好きな生地でオーダーすれば良いのに。チェザーレ アットリーニが好きなのにイタリア生地は良くなく英国生地が良いなどというのは、おかしい話だ。イタリアはダメで英国はいいという業界のイメージ戦略がうまくいっているのかもしれない。モクソン(MOXON)なんて良い例か。海外サルトリアのトランクショーなどでも既製ブランドやサルトリアの名前が入ったバンチを持ってくる所もあるだろうけど、その場合は大体中身はイタリア生地で、織元はデルフィノとかその辺。その話はまた今度。

確かにホーランドシェリーの生地はイタリアでも良く扱われているが、それは価格が安くてそこそこ良いからって程度の理由でどちからというと入門編、日本では何故か高級生地で最高の玄人生地のようなイメージがあるようだが。しかも特殊な生地以外の殆どの生地の生産は南米で行われていて、イギリス産を謡う為に仕上げなど規定の最低限の事だけイギリスでしている。イタリアだと日本の半額近いんじゃないかな。別に南米の薫りがする訳ではないが。

ヴィンテージ生地に関しても余り興味がないと言うかヴィンテージだからという訳ではなくて良いなと思って買った生地がたまたまヴィンテージである事が多かった。
その昔ヴィンテージのデニムなどが流行った時も全く食指は動かなったか、それを着ている人もかっこいいと思わなかった。しかし僕自身ヴィンテージやアンティークの工芸品や美術品などは好きで良く買うから古き良きものへの興味が無い訳ではないとは思う。
ただヴィンテージ生地や古い生地でも大して良くもないものを、新品の白いスニーカーの気恥ずかしさと中古のこなれた安心感や調和感みたいなものに流されて選ぶべきではないと思う。どうせ何年か着てればそうなる。

ヴィンテージ生地は基本的には売れ残りであるものが多い、トラウザースのサイズだと良い生地が残ってる場合はあるが。
それに経年劣化やカビや虫食いや最低限必要な脂分の抜けや保管状態が悪く仕立てや実際の着用やクリーニングに耐えられないものも多い、2、3シーズン普通に着てたらボロボロやクタクタなんて事もあるだろう。革製品のように保湿クリームが塗れる訳ではない。
変なストライプやチェックやただ無駄に分厚いだけの生地を現代にないヴィンテージ生地感や脂分が抜けたバサバサの生地を売る為に脂の抜けた良い感とかいう店などもあるだろうし、致命的なミスをした場合にどうするかなど、客が気に入ったり持ち込んだとしてもその辺のリスクを説明したり一筆貰わない店はどうかと思う。
手持ちの古い服やサルトリア系の古着屋などを見れば仕立や生地による経年劣化の良し悪しなども参考になるだろう。

例えばヴィンテージ生地、ドーメルのマジック・スーパーブリオ・ロイヤルブリオ・トニック・スポテックス、スキャバルのムスタング、タイタン、モンテゴベイなどが分かり易い例だろうか。良く同じメーカーが同じ生地を作ったとしても風合いが違うと言われるが、例えばトニックだったらそもそも混紡率が違う、1957年に発売されたトニックは縦糸にウール41%、横糸にアルパカとキッドモヘア59%、アルパカは柔らかやな滑らかさと放熱性の為に少量入っている。原毛も織機も違うがアルパカも抜いてあるからそりゃ同じ風合いにもならないし、染色の微妙な差もあるのだろう、同シリーズの生地でも生産時期によって若干色目や質感が違う。80年代には製造停止で新しくても35年前の生地だから劣化してるものが多い、例えばブリオならドーメルから同じ混紡率で同等の生地が出てるからそちらを買えば半額程度だし、別に何が悪いって事もない。だって同じ会社が出さなくなった事は売れないものだろう、今時上記例のヴィンテージを名前だけで喜んで買うのはセンスや洋服発展途上国の日中韓位じゃないかな、余りオススメ出来ない。しかもモヘアは生地状態のままでも湿度による劣化が激しいし特に元が硬めの昔のモヘアは裂けやすいし原毛の表面がツルツルしているので撚糸がほつれやすい、原毛自体が硬いものの場合は余計にそうなる。昔僕もロイヤルブリオでは作った事があるが。

モヘア系や春夏ものなら例えば現行のスキャバル(SCABAL)のコットン/カシミア、マーチンソン(Martin&Sons)のフレスコ、、エドウィン ウッドハウス(EDWIN WOODHOUSE)のエアー ウール、エスコリアルやジョンクーパーのエスコリアル/SKM、テーラー&ロッヂのゴールデンベール/SKM、ウィリアム ハルステッド(William Halstead)のカンデブーモヘア/ウール辺りも良いんじゃないかと伝えた。ソラーロは日本ではキツイだろうし。
スポテックスが欲しいなら現行のVINTAGE SPORTEXの方が380g/mだし良い気する。
重めの生地ならエドウィン ウッドハウスの6PLYは良かった。現行のスタンドイーブン(STANDEVEN)のヘリテージツイストやリア ブラウン&ダンスフォード LBD(LEAR BROWNE & DUNSFORD )のオイスターも良いかと。

確かにヴィンテージ生地にしかない良さもある、それはもう手に入らないものや入りにくいもの。
例えばアイリッシュリネン、元来は北アイルランドの亜寒帯の小さな地域で栽培されそこで糸に紡いだものを指し、クリーム系の淡いシャンパンゴールドの生成り、質感はハリコシがありながら柔らかくしなやかな風合、繊維自体は強く長いからネップも無い、洗濯や摩擦にも強く通常皺や裂けが出やすいが出ない、最高品質のタイシルクのようで春夏にはもってこいの生地だ。
しかし1973~80年のオイルショックの煽りを受けて北アイルランドの紡績工場の殆どは廃業した、70年代後半には原材料の亜麻(フラックス)の栽培も終わってるので最低でも40年以上前のものとなる。値段はシルクと同等の高級品で高い技術が必要だった。元の生成りの色が全く違う、今のものはグレージュでロシア・ベルギー・フランス辺りで栽培されたものをベルギーやイタリアで紡績し生地にしている。粗悪品は代替品のヘンプが使われたり混ぜられたりしている事が多いが硬くゴワゴワしていて折ったような皺がでる。
たまにヴィンテージのアイリッシュリネンと言って売られている生地があるが、ただのシングル幅のリネン地で脱色染色して見た目だけ似せてる偽物というか違うもの、ゴールド味の濃いシャンパンゴールド系なんかは特にそうだ。
以前プロフェソーレ ランバルディの㏋でアイリッシュリネンが宣伝されているのを見かけたが、どうせウィリアム クラーク (William Clark) 辺りに注文をかけたものだろう。スペンス ブライソン(Spence Bryson)のリネンとかも良いと思うが、ウィリアム ビル (W.Bill) やハリソンズのバンチから選んでも結局同じことだから、色や重さで選べば良い。この辺のリネンは原材料がベルギーやフランスだからベルギッシュリネンみたいなもの、ただ南米で作られるホーランドシェリーが英国生地ならこれをアイリッシュリネンと呼んでも差し支えないだろう。

良く昔は原毛がとか言うがこのオイルショック近辺を境に多くの生産者や紡績工場などが廃業したり方向性を変えた、世の中の需要も変わった、今や殆どが経営統合されて大手資本に経営統合されて傘下グループ化されている所ばかりだ。
紡績や織の技術は年々進歩し現代の環境に合うように改良されている。確かに昔の生地は低速織機で人の目と手が微調整をしていて目も詰まっていて、まだ織機や紡績の技術が発展していなかった故に生地感や表情が豊かなものもある。
例えばジョンクーパーのドブクロス(DOBCROSS)などは良い、現在のレピア式やエアジェット式織機など高速織機と違い、昔の低速のドブクロス織機で熟練職人が木製シャトルを使い丁寧に織り込むので40m/日程度しか織る事が出来ない、6倍の時間が掛かる。昔のドブクロス4PLYなどなら更にmを織れない。世界に現存するドブクロス織機は14台でその全てがここにある、というかここにしかない。ホーランドシェリーのヴィクトリーなどは傘下のここが織元だ。
ジョンクーパーのドブクロスはSuper140'sWithカシミヤ&シルバーミンク340g/mなど現バンチもあるので良いかと思う。

低速織機なら国内に数台しか現存しない超低速のションヘル織機(シャトル織機)を使い熟練職人達が丁寧に織り上げる葛利毛織もある。日本の堅実さもその生地に良く現れているし非常にコスパも良い、このまま良い生地を織り続けて欲しい感から応援もしたくなる。葛利のドミンクス(DOMINX)、3,4PLYは良いと思う。僕もここの生地で作った事もあるし何着分かストックがイタリアにも置いてある。
国産なら今や無用の長物だが鐘紡のカレッジフランネルも良かった、これも織機を貰った先で復刻があるな。
フランネルならアーサーハリソン(2080 HARRISONTEXフラノ)やジョシュア  フランス(JOSIAH FRANCE)やドーメルの10.000やフォックス ブラザース(FOX Brothers)のエスコリアルフランネルとかも良いな。

ヴィンテージの定義は30年以上前、アンティークは100年以上前だろうけど、古くても良いものもあれば古いと良くないものあるだろう。
その辺の定義に拘らず良い保管状態で倉庫に眠っていた新古品というかデッドストック品、5,10,15年前に廃盤なったものなどや、生地感や色柄が気に入ったり現代にないような珍しい混紡率のものなどは良いとは思う。
例えば1年にネイビーの生地が100種類出るとして30年だと3000という分母になる、その中で良いものは古い生地でも買う意味がある、もしくは現行バンチの中にも非常に良い生地が1つや2つはある、それが30年後にヴィンテージとして意味がある、ただの昔の生地には何の意味もない。テーブルクロスはおろか雑巾にも使えない。

ま、普段自分が自然と手に取るものに似ている生地、オーソドックスで定番マスターピース的な生地が良いと思う。

勿論価値観や好みなんかは人それぞれだし、他人は人の服装なんて大して気にしてないから好きな生地を選べば良い。
上記にも書いたが、身嗜みや装いとはある種相手や周囲への配慮であり、環境や立場と調和させるべきであり、日常では良くも悪くも人目を引くような服装はすべきでは無いと思う。
やはり友人がせっかく仕立てるのだから失敗というか後悔はして欲しくないし着倒さないものを作っても仕方ないと思うので僕なりに説明したり、彼の着る姿を想定して出来る限り選んでみた。勿論具体例を出して良いと言った生地は実際僕自身も仕立てた事やストックもあるので品評も伝えた。
多分その友人が実際行ったのにも関わらず僕に相談してきた理由は、テーラーや店の人が逆の立場に立ち本当に良いと思って勧めてくれていなそうだと感じたからなんじゃないかと思う。

勿論彼の言うように今の時代、服なんぞの為に自ら手探りで失敗や経験値を積み造詣を深めたり審美眼を養うとかいう事は不合理に無駄な回り道で、そのリソースがあれば更なる仕事でも考えた方が良いし習うより良いものを与えられ慣れた方が早いし確かで損がないというのも分からない話ではない。彼らしい価値観だ。


今年の5月日本に帰国した際に、文中の日本のテーラーや海外サルトリアのトランクショーで良く作る友人邸で宅飲みした際に色々見せて貰い、僕なりにこれは良いこれはゴミや色々感じた事もあるので今度それも書いてみようかと。